J-クレジットと地域振興陸前高田市の取り組み


2011年の東日本大震災から10年以上が経過し、陸前高田市は復興とともに新たな地域振興の取り組みを進めています。今回は、陸前高田市の森林資源を活用した地域活性化の取り組みについて、ワタミエナジー株式会社(以下、「ワタミ」という)から陸前高田市に出向中の福井様にお話を伺いました。
ご紹介

陸前高田市は岩手県の東南端、三陸海岸の南の玄関口として位置しています。国の名勝に指定されている高田松原は、2㎞に渡る砂浜の海岸が広がり、東日本大震災津波に耐えた奇跡の一本松は、復興のシンボルとして世界中の人々から親しまれています。
震災の経験と教訓を後生に語り継ぐとともに、令和6年に国の脱炭素先行地域に選定されるなど、地域資源循環に向けた新たな取組も進めています。

まずは震災を経て生まれた陸前高田市とワタミの関係性について教えてください。
- 福井様:
- ワタミでは、震災直後から陸前高田市を支援してきました。当時は水や食料を届けることから、従業員による瓦礫撤去ボランティア活動、地域を盛り上げるイベントの開催、自社のコールセンターを市内に設置するなどしてきました。震災から10年が経過し、国によるハード事業(主には嵩上げ工事、道路、住居の整備、公共施設の建設等)に目処がついた段階で、ソフト事業として2021年4月29日、農業テーマパーク「ワタミオーガニックランド」※を開業し、陸前高田市や市内事業者と連携しながら、市外県外からの修学旅行生や観光客を増やす取り組みを行っています。
※ワタミオーガニックランド:https://watami-organic.jp/blog/watami_organicland
森林資源の活用に関する連携協定を締結されましたが、
その進捗について教えてください。

地域振興部農林課林政係主査
福井 聡 様
- 福井様:
- ワタミは、1999年に外食産業として初めてISO14001の認証を受け、2006年から森づくり活動に取り組んでいます。また、2010年に外食産業で唯一エコファースト企業に認定され、常に経済活動と環境活動の両立に取り組んでいます。
これまでワタミで培ってきたISO14001を基盤とした環境負荷の可視化や企業による森づくり活動のノウハウを、陸前高田市に提供しようということから、国の復興支援職員派遣制度を活用し、森林資源を活用した地域活性化の取り組みがスタートしました。 2023年11月に陸前高田市とワタミとの間で連携協定を締結し、森林クレジットの創出と活用に向けたプロジェクトと企業等による森づくり制度(以下、企業の森制度)の新設に着手しました。その後、森林クレジットのプロジェクト登録からモニタリング報告書の検証を経て、クレジットの発行に至り、同時に進めてきた企業の森制度もスタートすることができました。現在は発行したクレジットの販売と企業の森制度の参加者の受け入れ体制の構築に取り組んでいるところです。 余談になりますが、私が陸前高田市に派遣され、何とか成果を残すことができたのは、ワタミの森づくりに長年 事務局長として関わってきたことに加え、ワタミがソコテックさんのGHG排出量の保証を受けるための、Scope算定に取り組んできたことも大きかったと思います。これらの経験が、企業の森制度の設計やJ-クレジット制度の枠組みの中で認証を受けるまでのプロセスに大いに役立ちました。
陸前高田市の森林吸収系J-クレジットに関する取り組みと状況について
もう少し詳しく伺えますか。
- 福井様:
- 今回プロジェクト登録した森林は、陸前高田市気仙町にある約564ヘクタールの市有林です。この地域は古くから木材生産が盛んで、良質なスギを育ててきたエリアです。これまで先人が手をかけてきたこともあり、CO2の吸収量が多いことが見込まれることからプロジェクト登録エリアとして選定しました。実際にモニタリングした結果、想定よりも吸収量が多いことが確認でき、2,996t-co2のクレジットの発行に至りました。
発行までの一連の流れですが、制度事務局の審査費用支援を利用し、先ずはプロジェクト計画の作成と審査を受けました。第三者審査では、ご縁があり、ソコテックさんに担当いただきました。
プロジェクト登録後、モニタリングを実施していきました。航空レーザー測量データの活用と実測との併用で行い、9割を航空レーザー測量データに使用できたため、効率的に作業を進めることができました。
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モニタリングの目処がついた段階で、検証審査支援を受けるべく申請しましたが、予想以上に審査支援の申請者が多くなっているようで、制度事務局の支援を受けることができなかったことから、検証業務を直接お願いするに至りました。こちらも短い期間の中で対応いただき、第63回の認証委員会にて認証を受けることができました。
今後は、発行した森林クレジットの販売に注力していきたいと考えています。
具体的にどのように販売していく予定でしょうか?
- 福井様:
- 単に売買だけの関係ではなく、例えば、森林クレジットを購入してくださった 方を、クレジットを創出している森にご招待・ご案内するなどして、より購入者とのつながりや自然資本としての価値の理解を深めていただくきっかけになるように販売していきたいと思います。また、購入していただいたお金は森林整備や林業振興の施策の財源として使い道を明確にし、確実に森林に生かされる仕組み※としました。これらを一社一社丁寧に説明し、納得しいていただいた上で購入いただき、市との関係性が深まることを目指して参ります。
※令和6年12月 陸前高田市森づくり基金(条例)を制定

執行役員社長
二場 誠吾
企業による森づくりについて教えてください。
- 福井様:
- 多様な主体が参加して森づくりに取り組むこと、そこで様々な交流が生まれることを目的に、各地の制度を参考にしながら、市独自の制度としました。協賛金として年間50万円申し受け、市で森林管理を確実に実施しながら年1回以上、活動を実施していただきます。森にお越しいただく際には市の職員がアテンドし、森林資源の視察、防災対策や水産業の現状など、復興の「今」を体験いただくなどの一泊二日の研修の場としても利用していただけるところが特徴です。
森づくり活動を通じて企業との関係性はどのように変化しましたか?
- 福井様:
- クレジットを購入してくださった企業に企業の森制度にも参加していただく、逆に企業の森制度に参加いただく企業に森林クレジットも購入いただくなど、関係性が深まっています。森を入り口に、様々な企業の皆さま との関係や交流を促進していくことへの可能性を見出しているところです。また、参加企業様同士の交流にもつながっているようです。
今後の陸前高田市の展望について教えてください。
- 福井様:
- 現在、陸前高田市は観光や交流に力を入れています。特徴ある海の養殖や果樹栽培などと観光を掛け合わせることも重要な戦略です。震災を経験し復旧復興のプロセスを学ぶ場としての修学旅行や教育旅行 の誘致にも取り組んでいます。
今回の森林資源を活用した連携が、関係人口や交流人口の増加に貢献できればと思います。
森林クレジットや企業の森制度について、今後の展望を教えてください。
- 福井様:
- J -クレジット、企業の森制度などを通して、実際に現地を訪れることで、森・川・里・海のつながりを感じていただけるのではないかと考えています。

執行役員
倉内 瑞樹
最後にソコテックの審査についての印象について教えていただけますか。
- 福井様:
- 担当審査員の方が、分かりやすく進めてくださり 非常に助かりました。また、森林吸収系の審査では豊富な審査実績をお持ちで、エビデンスとして何を用意すればよいのか、丁寧に対応いただき、初めての取り組みで手探り状態だった我々にとって、本当にありがたかったです。
陸前高田市では、森林整備や林業振興の財源としてこのクレジットの販売収益を充当していきたいと考えています。切れ目なく販売していけるよう、クレジットの販売状況を睨みながら最適なタイミングでクレジットの認証を受けていく計画なので、ご縁があれば引き続きよろしくお願いいたします。
- 二 場:
- ありがとうございました。陸前高田市の森林資源活用の取り組みは、環境保全と地域振興を両立させる先進的な事例だと思います。J-クレジット制度や企業の森制度を通じた企業との協働、そして海と山の自然を活かしたカーボンオフセットやネイチャーポジティブな取り組みは、地方創生と環境保全の新たなモデルとなり得るものです。この挑戦が更に発展し、他の地域にも希望を与え続けられることを期待したいと思います。

